医療栄養学科の学生が本気で挑む。1日限りの健康カフェ「Smile Up Caffe」の取り組みに迫る!
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- Kentaro Hisadomi
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- Keisuke Kimura
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- Hideki Shibayama
【CROSS TALK】 医療栄養学科の学生が本気で挑む。1日限りの健康カフェ「Smile Up Caffe」の取り組みに迫る!
城西大学医療栄養学科の学生たちが運営する「Smile Up Caffe」は、3カ月に一度だけオープンする1日限りのカフェです。毎回異なるテーマの料理を提供し、その真剣な姿勢と眼差しは、プロの料理人も顔負け! 彼らはここで何を学び、どう成長へと繋げているのか。指導教員と学生たちの声から、その実態に迫ります。
間借りしたカフェで、1日だけの沖縄料理屋が開店!


東武越生線の武州唐沢駅から徒歩10分の場所にある「梅凜caffe」。梅農家さんが営むそのスペースを間借りし、3カ月に一度オープンするのが「 Smile Up Caffe 」です。
学生が運営すると聞くと、学祭の模擬店のようなイメージを抱くかもしれません。けれど、メニュー開発から調理、接客、はたまたPR活動まで、全てを学生たちが行います。一般のお客さんも食べにくる実践の舞台でもあるから、みんな真剣そのもの。


驚くべきは、そのクオリティの高さです。「和洋折衷」や「建筑美食(中華料理)」など、回ごとに設定される独創的なテーマ。そして、そのテーマに沿って開発される料理の数々は、素材選びから調理法、盛り付けまで、細部に渡ってこだわり抜かれています。




この日は「沖縄の長寿の秘訣」をテーマに、豚肉を黒ゴマのタレに漬け込んだミヌダル定食やラフテー定食、さらには某コーヒーチェーンで提供されていそうなドリンクなど、美味しさと栄養を兼ね備えた食事が提供されました。メニューは沖縄の郷土料理ですが、使用する米は埼玉県産、野菜なども可能な限り地場産品にこだわるなど、地産地消の意識もとても高い。
また、単に料理を作って提供するだけではありません。すべてのメニューは栄養価計算が行われ、カロリーはもちろん、ビタミンやミネラルの含有量まで計算されています。まさに、栄養学を学ぶ学生ならではの取り組みです。
それでは、参加希望者も多い「smile up caffe」の中身は、実際どうなっているのか。ここからは指導にあたる小暮先生と、イベント皆勤賞の上野さん、そして今回リーダーを務めた大久保さんの話から、その狙いや学びを紐解きます。
小暮先生が「smile up caffe」を通して伝えたい世界。
この活動は、いつからスタートしたんでしょうか?
小暮 5年前からスタートしたそうですが、私は2023年から携わらせてもらっています。関わった当時は、ただただ学生たちが「作りたいものを作る」という状態。食材の無駄も多いし、赤字運営だったので、組織作りから着手しました。
現在はどのような組織に?
小暮 レシピ考案、調理、レジ、ホールなど、各セクションに責任者を置いています。食材も絶対残しません。利益を出すことが目的ではありませんが、いまは少しだけプラスになっています。
メニューは毎回変わるそうですが、どう決めているのか教えてください。
小暮 学生の感性に任せています。今回は大久保さん(後述)が決めていますね。いつも「これ食べたいよね」っていう会話からメニューを決めるのですが、それだけじゃダメ。コンセプトであったり、料理を通してお客さんに何を伝えたいかを明確にしないと、やる意味がないと思っていて。決して模擬店ではないですからね。
学生のみなさんは普段、栄養学を学んでいますから、その理解度を深める狙いもあるのでしょうか。
小暮 もちろんです。栄養価計算も全部してもらっていて、カロリーやビタミン、塩分、脂質なども適正な値にして料理を作っています。実践で学ぶことが一番ですから。最初は「ワイワイしていて楽しそう」と思って参加する人も多いですけど、その裏側はかなり本気で、驚く学生も多いんです(笑)。
実際に一般のお客さんに提供するわけですしね。
小暮 お金をいただいて、お客さんに提供していますからね。大前提として安全なものじゃなきゃいけないし、美味しくなければいけない。さらに、自分たちの意図を汲み取ってもらえる料理にしなければいけないので、みんな必死なんですよ。
レシピ開発も学生が主導しているんですか?
小暮 はい。ネットにあるレシピを使うのはいいんですけど、やはり栄養学の観点だと完璧じゃないんです。なので細かく調整しながら、学生たちにはレシピを作ってもらっています。
「Smile Up Caffe」は参加希望者が多いと伺いました。人気の秘訣は何なのでしょうか?
小暮 繰り返しになりますが、真面目にやらなきゃいけないっていうのが大きいのかもしれないですね。本当の意味で栄養学が身につく場ですから。あと、私の中では「同じ釜の飯を食べる」という裏テーマを設けていて、みんなでまかないを作って、みんなでテーブルを囲んで食べています。学生たちの繋がりを作る上で、すごく大切なことなんですよ。
この活動を通じて、学生たちには何を感じ、学んでほしいですか?
小暮 まずは経験を積んでほしいです。大学では、実践のなかで調理スキルや栄養の知識を身につける機会は少ないですから。それと同時に、いろんな人と繋がり、たくさんの思い出を作ってもらって、今後の人生や就活に少しでも役立ててもらえるといいなって。
上野さんが見つけた、縦の繋がりが生まれる場所。
「Smile Up Caffe」に参加しようと思ったきっかけから教えてください。
上野 この活動の醍醐味は縦の繋がりを作れることです。そこでいろんな価値観に触れることで、将来の選択肢が広がると思い、参加しました。
いまはPRも担当しているんですよね。
上野 SNSで、定期的に情報をアップして活動の周知を図っています。ただ、それ自体は集客の目的ではないんです。というのも、いまは限定20食なので、来客がありすぎても困ってしまう。地域の人に来てほしい思いはありますが、あくまで活動を紹介するのが目的です。
活動のなかで、難しさを感じることはありますか?
上野 以前、素材を練り込んでパスタを作る機会があったんです。最後に機械を使って伸ばしていくのですが、分量を間違えるとうまく製麺ができない。それは難しかったですし、逆に上手くいったときは、本当に嬉しかったですね。
最後に、「Smile Up Caffe」に参加して感じた魅力を教えてください。
上野 大学にもいろんなサークルがありますが、この活動は特に、横よりも縦の繋がりが多い活動だと思います。グループに分かれてレシピを開発したり、原価を計算したりするのですが、その組み合わせも小暮先生が、あえて上下の学年の人とグルーピングするんです。そこで勉強や就活の意見交換もできるので、とても貴重な機会ですね。「Smile Up Caffe」での活動は学びの連続でもあります。これまでやったことのない調理法だったり、素材の組み合わせなど発見だらけなので、調理スキルの向上にも繋がっていると思います。
普段の授業では体験できないことの連続。
今回、大久保さんはリーダーとして、コンセプト作りからレシピ開発まで担当されました。まずは、沖縄料理を提供することになった経緯から教えてください。
大久保 友達が「沖縄料理が食べたい」と言ったのがきっかけです。結構単純な理由でした(笑)。ただ、「Smile Up Caffe」の場合、沖縄料理である理由やコンセプトも必要になってくる。そこから沖縄料理を深堀っていくと、沖縄がかつて長寿県だったことに行き着いたんです。「これだ!」となって、歴史を調べ、長寿の秘訣である料理を探っていき、今回のメニューにたどりつきました。
そもそも、大久保さんが「Smile Up Caffe」に参加しようと思ったのはなぜですか?
大久保 最初はあまり料理への関心がなく、経験もなかったんです。調理実習をやってみても、他のみんなに比べると全然ダメで。料理する機会をもっと増やさなきゃという焦りから参加しました。
授業で料理をする機会は多くないんですね。
大久保 そうなんです、3年生になるまでに8回ほど。逆に「Smile Up Caffe」は、1年に4回活動してるんですけど、1回ごとに、試作と再試作があり、前日準備で実際に作って、当日も作るので、料理に触れる機会が多いんです。
今回、リーダーとして運営に携わって感じたことはありますか?
大久保 まず、人をまとめるのが得意じゃないのですごく難しかったですね(笑)。みんなも就活や勉強で忙しく、時間がないなか、私が先頭にたってモチベーションを維持させなきゃいけなかった。そこは1番苦労しました。
逆にやりがいや学びの部分も大きいですよね。
大久保 普段の授業では得られないことがたくさんあると思います。実戦に近い環境なので、調理実習とは違って、その場その場での判断が求められますし、お客さんにご飯を提供するので責任感も違います。
大久保 あと、今回苦戦したレシピがドリンクです。サツマイモのスムージーを提供していたんですけど、試作したときに、すごく粉っぽかったんです。調べると、デンプンが老化する現象が起きていることがわかって。そこから原因を探って、正解を導けたときはすごく嬉しかったですし、お客さんにも好評だったので、試行錯誤した甲斐がありました!
実践の中でスキルと知識を身につけられる、貴重な場。

学生たちは、メニュー開発から栄養計算、原価計算、仕入れ、調理、接客、会計、広報活動まで、飲食店運営のすべてを経験し、さらには提供した料理に対するお客様の反応をダイレクトに感じることもできます。授業の一環ではあるものの、失敗は許されない真剣勝負の場。

小暮先生は言います。「その緊張感が成長に繋がりますし、身にもなると思うんです。ここではゼロから自分たちで考え、作り上げる。その過程で得られる創造性と責任感は、将来必ず役立つはずです」

次回の開催は12月。次はどんなテーマで、どんな健康的な料理が提供されるのか。学生たちの挑戦は続きます。
同じメニューを作ってみたい方は、ぜひこちらでレシピを確認してください!
小暮更紗
東京農業大学国際食料情報学部の客員研究員を経て、2023年より城西大学薬学部栄養学科の助教授を勤める。研究分野は栄養学、健康科学、食品科学。主な受賞歴は「2022年度日本食品保蔵科学会 論文賞」。
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