研究内容

ナノ発光材料の開発と顕微分光イメージングによる機能解析

光あれ、とは聖書に出てくる言葉ですが、この場合の光とは照明光のことです。我々の言う「光る」という現象は、あるモノに照明光を当てると、別の色の光を発することを指します。「蛍光」とか「りん光」と呼ばれる現象がこれにあたります。皆さんがご存知の白色LED照明は青色の光を緑、赤に「光る物質」に当てることで、青、緑、赤色が混ざって白く光っているのです。「光る物質」は皆さんの身近なところから意外なところまで、多くのところで使われています。その「光る物質」の色は物質を作っている材料や大きさによって決まっています。そこで、今までにない「光る物質」を作ろうと世界中の研究者が日夜しのぎを削っているのです。

我々の研究室では、有機分子、高分子、金属、半導体など様々な材料からなるナノ発光材料を調製しています。分子や原子をナノサイズに閉じ込めることで、普通は光らない物質を光るように改良することもできます。ここがナノの世界の奥深さです。しかし、ナノの世界のならではの難しさもあります。上記のように、物質の大きさで光る色が大きく変わったりするので、大きさと色との関係をはっきりと理解することは難しいです。このため、物質の大きさを精密に制御したり、光学顕微鏡で物質の大きさと色との関係を直接調べたりする必要があります。この、作るだけではなく、なぜその色に光るのか、よりよく光るようにするにはどうすれば良いのかを考えることが、このナノ機能化学研究室の特色であるともいえます。

研究室で開発した蛍光分子を中に閉じ込めた高分子ナノ粒子の蛍光像。
とてもよくサイズの揃ったナノ粒子が簡単に作れるため、今後の実用化が期待されます。

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タンパク質による新規光学材料創生

20種類のアミノ酸から構成されるタンパク質は、極めて豊富な多様性と個々としての独自性を併せもつ機能性材料であるといえます。近年、タンパク質を反応容器とした無機材料の調製が広く研究されています。このような生体分子による無機材料作製はバイオミネラリゼーションとも呼ばれ、例えばアコヤ貝が真珠を作るのもこの1つです。つまり生き物の行う化学反応に学んで新しい材料を作ろうとしていることになります。

この流れの中で我々はタンパク質を用いた発光性金ナノクラスターの調製を行ってきましたが、近年ここから歩を進めて、タンパク質の集合体、つまりタンパク質結晶を反応場として結晶内に無機ナノ材料を三次元分布した構造を調製する研究を進めています。タンパク質結晶細孔のサイズや間隔はタンパク質に依存するため反応容器としての多彩さは例を見ず、その構造体はフォトニック結晶となって新しいな光学特性の発現が期待されます。また、三次元構造形成過程をその場観察し結晶内でのクラスターの形成・成長と空間分布の変化を発光波長の変化からリアルタイムで調べることで、結晶内の分子拡散や濃度勾配など多孔質反応場としてのタンパク質結晶としての特質を理解してゆきたいと考えています。

タンパク質(ウシ血清アルブミン)を用いた発光性金ナノクラスター調製。
タンパク質の中で金原子が25個集まった構造を作ります。紫外光をあてると赤く光ります。

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レーザー顕微分光イメージング装置の開発

宇和田は光学顕微鏡とレーザーが大好きです。なぜなら顕微鏡は細かいものが観察でき、レーザーは1つの波長を持った強い光だからです。この顕微鏡とレーザーを組み合わせると、それぞれの利点を生かしたすばらしい装置を作れます。顕微鏡はものを観察するために光を必要としますが、その光としてレーザー光が適しています。光る物質であれば究極には単一分子レベルで確認できたりもするのです。宇和田は日夜研究室のレーザー顕微鏡をあれこれ改良することに頭を使っています。その一環が、単に観察するだけでなく、分光測定もできるようにしたことです。顕微鏡で、レーザーを励起光源として、分光測定までできれば、見るだけでなく化学的なことを調べることまでできるようになります。

この研究室では最重要インフラとしてレーザー顕微鏡を位置づけています。研究のオリジナリティをこれで担保しているのです。上記のナノ発光材料やタンパク質を調べるのに使っています。吸収・レイリー散乱、発光、ラマン散乱など様々な分光測定とイメージングをこの顕微鏡で行っています。

広域照明ラマン散乱顕微分光装置。励起光を変えて蛍光顕微鏡としても使っています。

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レーザーによる物質操作

最近はちょっとサボり気味ですが、宇和田はもともと"レーザートラッピング"という、レーザーによる物質操作の研究を行っていました。光にはそもそも"光圧"といって、進む方向にものを押す力があります。輻射圧などとも呼ばれるこの力は非常に小さいため日常で実感することはありませんが、宇宙空間だと無視できないものとなり例えば彗星の尾が太陽と逆の方向を向くのはこのためです。また、光圧を駆動力としたソーラーセイルという宇宙船の開発も進められています。夏目漱石の小説『三四郎』の中で野々宮氏がこの光圧に関する実験を行っていたことでも知られています(余談ですが、夏目漱石に光圧について教えたのは弟子であり科学者の寺田寅彦です)。

さて、その弱い光圧ですが、光の源を強いレーザー光にしてこれを顕微鏡の高性能なレンズで絞り込むと、光圧は光の進む方向ではなく、光の最も強い点、つまり集光点を向くようになります。すると、この集光点に光圧によってものが集まってきたり、ものを捕まえたりできるようになります。これをレーザートラッピングと呼んで、ナノ・マイクロサイズの物体の操作に使用されています。この光圧を使った分子の結晶化や物質集積が現在注目されていますが、宇和田はそこにレーザーによる局所加熱や対流を組み合わせることで、より精密なナノ物質集積方法を確立しようと考えています。

レーザートラッピングは熱対流などとカップリングすることでより効率的な物質集積手法となります。

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