江戸後期の戯作者・柳亭種彦(りゅうていたねひこ)(1783~1842)が執筆した長編小説『偐紫田舎源氏』(にせむらさきいなかげんじ)は、平安文学の傑作、紫式部『源氏物語』の世界をベースに、時代を室町時代に置き換えて描いた合巻の代表的作品です。歌舞伎や浄瑠璃的な世界を取り入れ、推理小説仕立てに仕上げた本作は、挿絵を当時の人気絵師、初代歌川国貞(1786~1865、のちの三代豊国)が担当したこともあり、江戸の人々をおおいに魅了し一大ベストセラーとなりました。このブームの勢いは浮世絵にも見られ、登場人物や主要な場面をアレンジして描いた「源氏絵」と呼ばれる作品が数多く刊行されます。一方で、『源氏物語』を絵画化したものも「源氏絵」といい、江戸時代は特に盛んに描かれていました。
この度の展示では、当館が所蔵する浮世絵のうち、二代歌川国貞(にだいうたがわくにさだ)(1823~80)と二代歌川広重(1826~69)が、幕末期に描いた浮世絵版画の揃物《俤源氏五十四帖》(おもかげげんじごじゅうよんじょう)と、浮世絵師で日本画家の尾形月耕(ルビ:おがたげっこう)(1859~1920)が明治期に描いた《源氏五十四帖》(げんじごじゅうよんじょう)の2つの源氏絵から抜粋してご紹介、その他の源氏絵作品とともにご覧いただきます。
多様な源氏絵の世界をどうぞお楽しみください。