In vitro皮膚透過性試験法の確立の経緯

In vitro皮膚透過性試験法の確立の経緯
杉林堅次


 1979年にスコポラミンの、そして1980年にニトログリセリンの経皮吸収型製剤(TTS)が上市され、DDSの1つとしてTTSが、さらに全身作用を期待する投与部位の1つとして皮膚が注目されるようになった。これらの開発を受けて、これら2薬物以外にTTS化できる候補薬物のスクリーニングが始まり、in vivo経皮吸収試験より簡便でかつ測定精度がよい方法としてin vitro皮膚透過試験が広範に始められることとなった。当時(1970年代後半-1985年頃)、米国のW.I. Higuchi先生らはside-by-side型(横型)の拡散セル(ドナーとレシーバ側の溶液容積は1-2 mL程度)を用いてin vitro皮膚透過性を試験していた1)。本邦においても、その頃in vitro皮膚透過試験がなされていたが、拡散セルのドナーおよびレシーバ容積は10 mL程度もしくはそれ以上が多く、コンパクト性において劣っていた。ほぼ同じ時期にプロクター・ギャンブル社に籍をおくフランツ博士はin vitro皮膚透過性を測定するための縦型拡散セル(後年、フランツセルと呼ばれるようになる)を発表し2)、多くの化学物質の経皮吸収性を測定した。本邦では、当時(1980年頃)、一部の薬学関係者を除くと産医研の鶴田博士が毒性評価のためにin vitro皮膚透過性を測定していた3)
 その後、米国を中心としてクロニジンやエストラジオールのTTSも上市(それぞれ1984、1986年)され、本邦でも硝酸イソソルビドのTTSが上市された(1984年)。In vitro皮膚透過実験はこれらの研究・開発過程で多用された。本邦が特に活発であったが、同時期に日米欧で経皮吸収促進剤の研究が進み、多くの研究報告や特許が出た。Azone (ラウロカプラム)、Transcutol、さらには久光製薬が開発したピロチオデカン(HPE-101)はそれらの代表例である。これらの開発研究を支えた実験法の多くもin vivo経皮吸収実験よりin vitro皮膚透過実験であった。
 しかし、まだこの時期ではin vitro皮膚透過実験法は標準化されておらず、それぞれの研究者が独自の方法を使用していた。そんな中、FDAやWHOがin vitro皮膚透過実験法に関するワークショップを重ね、1987年と1991年に、その報告書が学会誌などに発表された4,5,6)。本邦ではこの時期、第2世代のパップ剤を上市するため経皮吸収型製剤シンポジウムが毎年開催され(1984年~1990年)、このなかでもin vitro皮膚透過実験法が紹介されている。このように、1995年くらいまでは(1980頃の鶴田博士の毒性研究は別にして)、主にTTS開発のための手段としてin vitro皮膚透過実験が利用されてきた。
 一方、1996年になり、欧州化粧品工業会(COLIPA)がin vitro皮膚透過実験法の基準に関するワークショップが開催され、化粧品業界にin vitroにおける皮膚透過実験法の重要性が理解され始めたきっかけをつくった7)。これに対し本邦の化粧品業界が経皮吸収性の重要性を理解し始めたのは今世紀になってからであろう。
 1990年前後の薬学関係者を中心としたin vitro皮膚透過実験法の標準化4,5,6)や1996年のCOLIPAの in vitro皮膚透過実験法の標準化7)以降については、一定レベル以上にある多くの研究者は、これらの基準に則ってin vitro皮膚透過実験を行うようになったと考えられる。Howesらの「Method for assessing percutaneous absorption」と題する1996年に発表された論文8)の中で、「実験動物を用いた多くの研究では優れたin vitro/in vivo相関がみられているものの、両者に違いのあるものもある」と述べているが、これは、標準的なin vitro皮膚透過実験法がようやく定まった時期にあったためである。In vitro皮膚透過実験法の確立により、たいてい優れたin vitro/in vivo相関を見るようになった(In vitro透過性がin vivo透過性より低くなる原因の1つは、真皮部分を切り取る、いわゆるsplit skinの使用で改善される。逆にin vitro透過性がin vivo透過性より高くなる原因には推奨されないレシーバ溶媒の使用がある。これらの低いin vitro/in vivo相関は前述したワークショップの結果を参考にすることによって改善された)。

 薬物をはじめとする化学物質の効果や毒性は、まるごとの動物やヒトにおけるin vivo試験または細胞レベルのアッセイで評価されている。このとき、投与量や適用量と効果や毒性の関係は用量反応曲線(dose response reaction)に従うと考え評価されている。一方で、医薬品研究、例えば同一の効果を有する後発品を開発するときでは、血中濃度‐時間曲線で示される生物学的利用能(bioavailability)が先発品の80-125%であることで評価されている。特に皮膚に適用する外用剤の後発品開発では、DPK(Dermato-Pharmacokinetics)試験法(皮膚適用後の角層中濃度を測定する)が推奨されている9)。また、効果と副作用のバランスを保った投与設計のためにTDM(Therapeutic Drug Monitoring)が臨床現場で繁用されている。これら2つの試験法では、効果(毒性)を薬物濃度で評価できることを意味している。
 これらのことから、皮膚適用した化学物質の(皮膚組織以外の)体内での効果や毒性は血中濃度で評価できることが容易に推定できる。さらに、皮膚適用した化学物質の血中濃度は一般に皮膚透過速度を全身クリアランスで除したもので表わされることが既知となっているので、結論的には皮膚透過速度から化学物質の(皮膚組織以外の)体内での効果や毒性を予測することも可能となる。

 以上により、in vitro皮膚透過実験より化学物質の体内毒性の予測が可能となり、とくにある限度以内の皮膚透過しか見られない場合は、毒性試験を免除できると考える。

参考文献
1. Yu C.D., Fox J.L., Ho N.F., Higuchi W.I., Physical model evaluation of topical prodrug delivery-simultaneous transport and bioconversion of vidarabine-5'-valerate I: Physical model development, J. Pharm. Sci., 68, 1341-1346, 1979.
2. Franz T.J., Percutaneous absorption on the relevance of in vitro data, J. Invest. Dermatol., 64, 190-195, 1975.
3. Tsututa H., Percutaneous absorption of trichloroethylene in mice, Ind. Health, 16, 145-148, 1978.
4. Skelly J.P., Shah, V.P., Maibach, H.I., FDA and AAPS report of the workshop on principles and practices of in vitro percutaneous penetration studies: Relevance to bioavailability and bioequivalence, Pharm. Res., 4, 265-267, 1987.
5. Shah V.P, Behl C.R., Flynn G.L., Higuchi W.I., Principles and criteria in the development and optimization of topical therapeutic products, Int. J. Pharm., 82, 21-28, 1992.
6.Shah V.P., Flynn G.L., Guy R.H., Maibach H.I., Schaefer H., Skelly J.P., Wester R.C., Yacobi A., In vivo percutaneous penetration/absorption, Washington, D.C., May 1989, Pharm. Res., 8, 1071-1075, 1991.
7. Colipa Regulatory, Guidelines for percutaneous absorption/penetration , 1997.
8.Howes D., Guy R., Hadgraft J., Heylings J., Hoeck U., Kemper F., Maibach H., Marty J.-P.h, Merk H., Parra J., Rekkas D., Rondelli I., Schaefer H., Täuber U., Verbiese N., Methods for Assessing Percutaneous Absorption the Report and Recommendations of ECVAM Workshop 13   ATLA, 24, 81-106, 1996.
9.  局所皮膚適用製剤の後発医薬品のための生物学的同等性試験ガイドライン(別紙4)