研究内容 Research

当研究室では、ホウ素を含む分子のユニークな性質や、環状オリゴ糖が分子を取り込む力を活用し、 医薬品・化粧品・センサーなどに役立つ新しい機能性分子の開発を目指しています。 ここでは、当研究室で進めている主な研究テーマを紹介します。

1血糖値応答性インスリン製剤の開発

インスリンは、血糖値を下げる糖尿病治療薬として広く用いられています。 しかし、投与量や注射のタイミングが適切でない場合、血糖値が過度に低下し、 「低血糖」を引き起こすおそれがあります。 当研究室では、この低血糖リスクの低減を目指し、 血糖値に応じて必要なときに働く新しいインスリン製剤の開発を進めています。

血糖値応答性インスリン製剤のイメージ
論文情報
Satoshi Kitaoka, Minori Kojima, Miho Koita, Hiroki Koyama, Chisato Mori, Mako Okabe, Ryusei Ando, Kaede Kobayashi, Ryo Watanabe, Yuki Takano, Tony D. James, Yuya Egawa, Fully dissolved glucose-responsive insulin delivery system based on a self-immolative insulin prodrug and glucose oxidase, Chemical Science, 16, 16645-16658 (2025). DOI

2メラニン生成抑制物質の探索

当研究室では、ホウ素を含むボロン酸という化合物を広く研究しています。 ボロン酸の面白い性質のひとつに、特定の化学構造(2つのOH基を持つ構造)に結合することがあります。 メラニンの生成過程にも、このような構造を持つ中間体が存在します。 この中間体にボロン酸が結合すると、その後のメラニン生成が進みにくくなります。 現在、優れた効果を示すボロン酸を探す研究を進めています。

メラニン生成抑制物質探索のイメージ

3ホウ素を用いた化学センサーの開発

ホウ素(B)を含むボロン酸は、OH基を多数持つ糖と結合できる性質を持っています。 この性質を利用すると、糖があると色や光り方が変わる分子を作ることができます。 このような分子は「化学的な糖センサー」と呼ばれ、血糖値を調べる技術への応用も進められています。 当研究チームでも、糖に応答して蛍光が変化する「JoSai-Red」という化合物を発表してきました。

ホウ素を用いた化学センサーのイメージ
論文情報
Naoki Shimomura, Yuya Egawa, Ryotaro Miki, Takashi Fujihara, Yoshihiro Ishimaru, Toshinobu Seki, A red fluorophore comprising of a borinate-containing xanthene analogue as a polyol sensor, Organic & Biomolecular Chemistry, 14, 10031-10036 (2016). DOI

4がん細胞でだけ起動する“スマート抗がん剤”の開発

抗がん剤は、がん細胞を攻撃する一方で、正常な細胞にもダメージを与えてしまうことがあります。 もし、がん細胞の中でだけ薬のスイッチを入れることができれば、副作用を抑えた新しい治療につながるかもしれません。

当研究室では、ホウ素(B)を含む分子を使って、抗がん剤の力を一時的に封印し、 薬を「眠った状態」にする研究を行っています。 そして、がん細胞に多い過酸化水素を合図にして、その封印を解除し、 眠っていた抗がん剤を再び起動させる仕組みを開発しています。

現在は、オンとオフがよりはっきり切り替わる新しい分子スイッチを設計し、 がん細胞だけを狙って働く“スマート抗がん剤”の実現を目指しています。

スマート抗がん剤のイメージ

5糖でほどけるネックレス型分子マシン

シクロデキストリンは、ブドウ糖が輪のようにつながった分子であり、内側に小さな空洞を持っています。 この空洞に薬などの分子を包み込むことができるため、医薬品や食品の分野でも利用されています。 また、この空洞にひも状の分子が通ると、ビーズを糸に通したような「分子ネックレス」をつくることができます。

当研究室では、この分子ネックレスに、糖を認識するフェニルボロン酸を組み合わせ、 糖を感知してほどける「ネックレス型分子マシン」の仕組みを開発してきました。 血糖値に応じて薬を放出する、新しい薬物送達材料への応用が期待されています。

糖でほどけるネックレス型分子マシンのイメージ