栄養学の基本と今日からできる実践方法
栄養学は、食物(栄養素)にはどのような働きがあるのか、私たちが健康で生きるためにどのような食事が必要なのか、といったことを科学的に探求する学問です。
本記事では、栄養学の基本やご自身で実践できる方法を解説します。
食生活を見直し、健康的な身体になるための一歩を踏み出してみませんか?
今こそ!栄養学が重要な理由
実は、世界で初めて栄養の研究所が建てられたのは日本でした。
「栄養学の父」と称される佐伯 矩(さいき ただす)博士は、1914年に「栄養研究所」を設立し、その後、卒業生を「栄養士」と称しました。
それから111年が経過しましたが、なぜ今、栄養学が重要なのかを解説します。
キーワードで知る、日本人の食と健康の歩み
私たちを取り巻く食環境は、時代とともに大きく変化してきました。
1945年以降(戦後)は、栄養不足が大きな健康問題でした。ところが、1970〜80年代には、栄養過剰による生活習慣病の増加が健康問題となりました。
2000年以降は、「メタボリックシンドローム」や「健康寿命」といった専門的な用語が浸透し、国民の健康意識が高まりました。
その影響で2010年代には、健康的な身体作りを目指した「減塩」「筋トレ」「ロコモ予防」といったキーワードが注目を集めました。
そして、2020年(コロナ禍)以降は、免疫を高めることへの関心が集まり、「腸活」などの腸内環境へのアプローチが注目されています。
日本人の食はどうなっている?
多くの栄養学に関するキーワードが注目されてきましたが、実際の私たちの食事はどのようになっているのでしょうか?
国民健康・栄養調査(令和5年)によると、野菜と果実の摂取量は、年々減少しており、特に20〜40歳代でその傾向が顕著です。
野菜は1日350gの摂取が目標とされていますが、実際は256.0gにとどまっています。果実も1日200gの目標に対して、92.9gしか摂取できていません(20歳以上の1日当たりの平均値)。
また、食品群別の摂取傾向を見ると、米や魚介類は減少し、肉類や乳・乳製品の摂取量は増加しています。
野菜と果実にはビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富に含まれるため、目標量の摂取が推奨されます。
一方で肉類や乳・乳製品には、脂質が含まれるため、食べすぎには注意が必要です。
こうして食品の摂取量の変化を知ることで、今の食事への気づきがあるのではないでしょうか。
食事を作る時間がない!
農林水産省の調査によると、「1週間のなかで主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上とっているか」という問いに対し、「ほとんどない」という回答をした人の割合は全体で12.3%でした。
若い世代(20〜30歳代)に限定した場合は、23.1%となりました。
その理由として、「仕事(家事・育児等)が忙しくて時間がない」が最も多く挙げられ、次いで「面倒くさい」、「経済的に余裕がない」と続きます。(国民健康・栄養調査令和5年)
余裕がない時は、必ずしも主食・主菜・副菜を組み合わせる必要はありません。
まずは「品数をそろえなければ」という考えから離れ、手間をかけずに用意できる食事からしっかりと栄養素を摂ることが大切です。
カラダは食べたものでできている
英語のことわざに、「You are what you eat(あなたは食べ物でできている)」という言葉があります。
この言葉のとおり、私たちの体は、基本的に口から食物を食べることで栄養素を取り込みます。ある意味、食事は数十年後の自分への投資だとも言えます。
たまにはゆっくりと料理をし、皆で食卓を囲むことで、栄養だけでなく、心も温かくなり、会話も弾みます。
コロナ禍で共食の機会が増加したように、食事はお腹も心も満たしてくれます。
栄養学の基礎|五大栄養素とは?
私たち人間が健康的に生活をするうえで必要とされている栄養素は、5つに分類され、これを「五大栄養素」と呼びます。
五大栄養素の概要と体に与える影響を解説します。
たんぱく質
たんぱく質は、糖質や脂質が十分でないときのエネルギー源となります。
体内でアミノ酸に分解されたのち、筋肉や皮膚、臓器などの組織を構成します。その他にも、酵素やホルモン、抗体などの健康を維持するためにも必要不可欠です。
たんぱく質は、肉類や魚介類、卵、大豆製品などに多く含まれています。
脂質
脂質は糖質やたんぱく質よりも効率の良いエネルギー源です。細胞膜やホルモンの原材料となるだけでなく、脂溶性ビタミンの吸収を助ける働きがあります。
脂質は、主に植物性の油(サラダ油やパーム油など)や動物性の脂(肉類や青魚、バターなど)から摂取することができます。
しかし、摂取しすぎると肥満や生活習慣病のリスクがあがるため、適量の摂取が大切です。
炭水化物(糖質・食物繊維)
炭水化物、脂質、たんぱく質は「エネルギー産生栄養素」と呼ばれ、体に必要なエネルギーの素となります。炭水化物は糖質と食物繊維に分けられ、糖質は脳をはじめとする様々な組織のエネルギー源となります。
炭水化物は米や小麦といった穀類、イモ類に多く含まれており、私たちは主食としてご飯やパン、麺類から摂取しています。
ビタミン
ビタミンやミネラルは、体の調子を整える働きがあります。
ビタミンには脂溶性(脂に溶けやすい)ビタミンと水溶性(水に溶けやすい)ビタミンがあります。
【脂溶性ビタミンの種類と含まれる食品】
| ビタミンA (緑黄色野菜、レバー、乳製品など) | ビタミンD (魚類、キノコ類、卵黄など) |
| ビタミンE (ナッツ類、魚介類、緑黄色野菜など) | ビタミンK (納豆、緑黄色野菜、海藻類など) |
【水溶性ビタミンの種類と含まれる食品】
| ビタミンC | ビタミンB₁ | ビタミンB₂ |
| ビタミンB₆ | ビタミンB₁₂ | ナイアシン |
| パントテン酸 | ビオチン | 葉酸 |
ビタミンCは、野菜(パプリカ、ブロッコリーなど)や果物(柑橘類、いちごなど)に多く含まれています。
その他のビタミン(ビタミンB群)は豚肉やレバー、乳製品、卵などに多く含まれています。
ミネラル(無機質)
ミネラルはカルシウムや鉄、亜鉛、カリウムなどに分類されますが、体内での生成ができないため食事からの摂取が不可欠です。
乳製品や魚介類、肉類、ナッツ類などに多く含まれるため、バランスよく食事へ取り入れましょう。
栄養学の実生活への活かし方
まずはこれまでの食生活を見直す
栄養素の役割が少し分かったところで、まずは日頃の食生活の見直しを行いましょう。
厚生労働省の食事バランスガイド(※)を利用すると、健康を維持するための望ましい食生活が送れているのかを確認できます。
その他に、不規則な食事や過度な飲酒は避ける、運動をする、よく休む、といったことも大切です。
参考:厚生労働省「食事バランスガイド」
忙しいときは無理のない範囲で工夫する
主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を毎食用意することは、忙しく過ごす現代人には困難です。「五大栄養素が含まれた食事を摂る」ことを意識して食事を用意してみましょう。
時短レシピやワンパンレシピの活用、加工食品をストックしておくなど、忙しいときでも無理なくできる工夫をしましょう。
一汁一菜でバランスよく栄養が含まれるようにするといった食事様式もおすすめです。
不足しがちな栄養素は少しの工夫で補える
お味噌汁を活用する
味噌は冷蔵のままだと色が悪くなるため、冷凍保存が良いことをご存知でしたか?
味噌にフリーズドライの野菜、だしを混ぜた後、大さじ半分程度の大きさに丸め、ラップに包んで冷凍保存しておきます。この味噌玉にお湯を注ぐだけで、いつでもお味噌汁を楽しめます。
使用するだしは、魚粉を利用すればカルシウムを摂取できます。(冷凍しない場合は、煮干しを使用し、そのまま食べるとカルシウムが摂取できます。)
顆粒だしを使用する場合は、食塩無添加のものを選択すると良いでしょう。
食塩が添加されただししか無ければ、味噌を丸める際に少し小さくしてください。
白米でなく雑穀を入れたご飯にする
雑穀に含まれるビタミンB群が摂取できます。例えば、玄米にはビタミンB₁が豊富に含まれます。
お米1合に対して玄米を大さじ2(30g)加えただけでも、ビタミンB₁の摂取量は2倍となります。
野菜(食物繊維)の摂取は汁物が決め手
サラダなどの生野菜は、嵩が大きくなってしまいます。汁物に野菜をたっぷり入れ、加熱することで嵩が小さくなり、食べやすくなります。
このように、ちょっとした工夫で不足しがちな栄養素を補うことができます。
家族や周囲の人と一緒に取り組む
ご自身だけでバランスのよい食生活を続けることが難しい場合は、ご家族や周りの人と一緒に取り組んでみましょう。
一緒に料理を作り、食卓を囲むことで、食事の時間がより楽しいものになります。
間違った栄養知識に注意
健康を維持するうえで栄養に関する知識は大切ですが、現代は情報で溢れかえっていますので、間違った知識を覚えないようにしましょう。
「炭水化物を食べると太る」
炭水化物は、過剰に摂取すると脂肪として蓄積されるため、肥満や生活習慣病の原因になる可能性があります。
しかし、不足すると必要なエネルギーが不足し、運動機能に支障をきたす恐れがあります。
また、脳へ栄養が行き渡らず、思考力や判断能力が低下するリスクも生じます。
そのため、「炭水化物=太る」はあくまでも過剰摂取によるものなので、適度な量を摂取することが大切です。
「脂質は体に悪い」
脂質の過剰摂取は、炭水化物と同様に肥満や生活習慣病を引き起こすリスクがあります。
しかし、不足することで脂溶性ビタミンの吸収阻害やエネルギー不足となる可能性があります。
脂質が気になる方は、動物性の脂の摂取を控える、揚げ物や炒め物などの頻度を減らすといった工夫で適度な脂質を摂取するようにしましょう。
「ビタミンやミネラルはたくさん摂れば摂るほど良い」
健康維持において、ビタミンやミネラルは必要不可欠な栄養素ですが、過剰摂取のリスクもあります。
特に脂溶性ビタミンは、体内に吸収されやすく尿中へ排泄されにくいため、頭痛、吐き気などを招く恐れがあります。
サプリメントから気軽に摂れますが、「必要な量を適切に摂取」を心がけることが重要です。
「夜遅くに食べると太る」
「夜遅くに食べると太る」と言われる理由は、寝る直前に食事をすると、摂取したエネルギーが消費されにくくなるためです。
夕食の時間が遅くなる場合は、揚げ物や炒め物など脂質の多い食品は控える、野菜を中心とする、などに注意すると過剰なエネルギー摂取を避けることが出来ます。
「サプリメントで食事を代替できる」
近年では手軽にサプリメントを購入することができますが、サプリメントはあくまでも食事で摂取しきれない栄養を補うためのものです。
「食事の代替品」ではないため、まずはしっかり食事を食べ、そのうえで不足する栄養素を補うようにしましょう。
「○○だけ食べていれば痩せる」
特定の食品だけを食べることでダイエット効果が期待できるといった情報もありますが、必要な栄養素が不足し、健康に悪い影響を及ぼす可能性があります。
しっかりバランスの取れた食事をし、適度な運動によって基礎代謝をあげるなど、健康的なダイエットを心がけましょう。
関連記事:健康食品の定義とは|選ぶ際の目印や注意すべきポイントについて
まとめ
栄養学を学び、日々の生活へ取り入れることは、健康的な身体を維持するうえでとても大切です。
しかし、間違った知識を覚えてしまうと健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
栄養や食に関する情報は、個人の感想や口コミではなく、国や研究機関が提供する信頼できる情報を参考にしましょう。
正しい知識に基づいたバランスのよい食事を心がけ、楽しく健康的な身体づくりを目指してください。
小暮 更紗
- 所属:薬学部 医療栄養学科
- 職名:助教
- 研究分野:ライフサイエンス / 栄養学、健康科学、食品科学
学位
- 食品栄養学(2019年03月 東京農業大学)
- 環境共生学(2022年03月 東京農業大学)


