経済学ってどんな学問?

経済・ビジネス
坂本 俊輔

経済学は社会科学の一分野で、私たちが豊かな社会を築くために、限られた資源をどのように用いればよいかを考える学問です。

私たちが生活を送るうえで欠かせないモノやサービスの生産、分配、消費などを主な分析対象とするため、誰にとっても身近で、興味をもって学びやすい分野であるといえます。

経済学という学問の歴史は、1776年に英国でアダム・スミスが著した『国富論』が始まりとされています。その後、ヨーロッパを中心に経済学の研究が進み、19〜20世紀を通じて生まれたマルクス経済学やケインズ経済学などの理論は社会に大きな影響を与えました。現代の経済学は理論面のみならず、データを使った実証研究の分野も盛んで、大きな発展を遂げています。

経済学の5つのキーワード

経済学を学ぶうえで欠かせない5つのキーワードを押さえておきましょう。

市場

モノやサービスが売買される場を市場(しじょう)といいます。市場と聞くと、いわゆる魚市場のような施設をイメージする方も多いかもしれませんが、経済学における市場とは実際に存在する場所を指すのではなく、概念としての「場」を意味します。市場では、買い手と売り手が価格という情報を通じて取引(売買)を行います。

需要と供給

市場取引において、買い手が欲しがる量を需要、売り手が提供する量を供給といいます。需要と供給はそれぞれ価格によって変動します。たとえば、価格が上がれば買い手の需要は減り、価格が下がれば需要は増えます。反対に、売り手の供給については、価格が上がれば増え、価格が下がれば減るという関係があります。

市場メカニズムと均衡

市場では、需要と供給が一致するように価格と取引量が決まります。この仕組みを市場メカニズムとよび、需要と供給が一致した状態を均衡といいます。何らかの理由で市場が均衡していない場合は、価格が上下に変動することで市場は均衡に向かいます。

たとえば、市場において需要が供給を上回っている場合、価格が上がることで需要が減り、供給が増え、やがて需要と供給が一致する均衡に達します。これが市場メカニズムの働きです。

GDPと経済成長

GDP(国内総生産)とは、一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値の総額のことで、その国の経済規模を示す目安となっています。日本のGDPは現在、アメリカ、中国に次ぐ世界第3位です。

なお、ニュースなどではGDPのほかにも「経済成長率」といった言葉をよく耳にしますが、これはGDPの前年からの変化率のことです。

景気と物価

景気とは、消費や生産、投資など経済活動全般の動向のことです。経済活動が活発に行われている状態を「好景気(好況)」とよび、逆に経済活動が停滞している状態は「不景気(不況)」とよばれます。

一般的に、好景気のときには物価は上がりやすく、不景気のときには物価は下がりやすい傾向があります。景気はつねに一定ではなく、良くなったり悪くなったりと、周期的に変動を繰り返します。これを景気循環といいます。

ミクロ経済学とマクロ経済学

経済学の中核を成す理論として、ミクロ経済学マクロ経済学があります。ミクロとは「小さい・細かい」といった意味をもち、マクロは「大きい・巨大」という意味を指す言葉です。その名の通り、ミクロ経済学とマクロ経済学は経済を分析する視点に大きな違いがあります。

ミクロ経済学は、消費者や生産者など個別の経済主体の行動に注目し、個人や企業の意思決定の問題や市場における資源配分の効率性などについて議論します。

一方、マクロ経済学は経済活動の集計量(GDPや物価など)の短期および長期の変化に注目し、その国における景気循環や経済成長の問題などについて考えます。

ミクロ経済学は私たち個人にとって身近な視点、マクロ経済学は国や地域を含むより広い視点で考えるという違いがありますが、どちらも経済分析に欠かすことのできない理論です。

データと実証分析

経済学においては、理論的な分析だけでなくデータを使った実証分析も盛んです。調査によって得られたデータから客観的な事実を導き出すのが経済学の実証分析であり、そのために必要な統計学的な分析手法について学ぶ分野は計量経済学とよばれます。計量経済学で身につけるさまざまな推計方法を適切に用いれば、経済データ間の因果関係を明らかにしたり、今あるデータから将来を予測したりできるようになります。

近年では、PCやインターネットの普及により、誰もが簡単に世界中のデータにアクセスし、専門的な統計ソフトウェアも気軽に利用できるようになりました。こうした環境の下で、計量経済学に基づく実証研究の蓄積が飛躍的に進んでいます。

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経済学の多彩な応用分野

ミクロ経済学やマクロ経済学、計量経済学、さらに戦略的な意思決定を研究するゲーム理論といった分野は、あらゆる経済分析の基礎となるものです。その一方で、経済学には私たちが直面しているさまざまな経済問題に焦点を当て、その具体的な解決策を考えるような応用分野がたくさんあります。

たとえば、国際経済学は貿易や外国為替取引など国境を越える経済活動に注目して分析を行います。財政学公共経済学は、政府や自治体など公的部門の担う役割や政策について議論します。労働経済学は賃金や雇用に関わる問題を扱い、環境経済学は地球温暖化やリサイクルなどの問題について考えます。

これらのほかにも、金融論、開発経済学、農業経済学、都市経済学、産業組織論、教育経済学、医療経済学などの分野があります。また、経済史経済地理学といった学際的な分野も少なくありません。ヨーロッパ経済論中国経済論など、各地域・国の経済状況を歴史や文化、政治体制などと関連づけて学ぶ分野もあります。

さらに最近では、個人の意思決定を心理学的な側面から分析する行動経済学や、経済理論の妥当性を実験によって検証する実験経済学といった分野の研究も盛んになっています。経済学は社会科学の中でも、特に発展の著しい分野だといえるでしょう。

この記事を書いた人

坂本 俊輔

・城西大学 経済学部 経済学科 教授

・(2008年03月 一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学 )

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