制御性T細胞とは|主な働きや癌との関係をわかりやすく解説

健康・医療
谷川 尚

「制御性T細胞(Treg)」という名前は聞いたことがあっても、「結局体の中で何をしている細胞なの?」「癌(がん)や病気の治療とどう関係しているの?」と疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。

簡単に言うと、制御性T細胞は免疫の暴走を抑える「ストッパー」役の細胞です。

この記事では、私たちの健康を守るために重要な役割を果たしているこの細胞について、その働きや特徴、そして癌との関わりについて、専門用語をできるだけ控え、わかりやすく解説していきます。

制御性T細胞(Treg)とは

制御性T細胞(Treg:ティーレグ)は、私たちの体の中に存在する免疫細胞の一種です。

免疫と聞くとウイルスや細菌を攻撃するイメージが強いですが、制御性T細胞は「過剰な免疫反応を抑え、自分自身の体を攻撃しないように調節する」という、非常に重要な役割を担っています。

実はこの細胞、1995年に日本の坂口志文教授(大阪大学)によって発見されました。

日本発の研究成果が、現在世界中の免疫学や医療の現場で注目されているのです。

参考資料:大阪大学免疫学フロンティア研究センター安定で機能的な人工制御性T細胞の製造法開発(坂口 G, in Sci Trans Med.)

制御性T細胞とヘルパーT細胞との違い

免疫細胞の中には、名前の似ている「ヘルパーT細胞」というものも存在します。

この2つは、いわばアクセルとブレーキのような対照的な関係にあります。

それぞれの違いは以下のとおりです。

  • ヘルパーT細胞:
    外敵を見つけ、「攻撃しろ!」と命令を出す
  • 制御性T細胞:
    「もう十分だ、攻撃をやめろ」とブレーキをかける

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制御性T細胞の主な働き

制御性T細胞は、免疫システムが「暴走」せず、正しく機能するために、まるで「免疫系のブレーキ役」や「優秀な指揮官」のような役割を果たしています。

具体的には、主に以下の3つの場面で私たちの体を守っています。

  1. 自己免疫疾患の予防:
    自分の臓器を敵とみなして攻撃するのを防ぐ
  2. アレルギー反応の抑制:
    花粉や食べ物などの無害なものへの過剰反応を鎮める
  3. 炎症の制御:
    ウイルスとの戦いが終わった後、速やかに炎症を鎮める

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制御性T細胞と癌との関係

私たちの健康を守る「正義の味方」のように見える制御性T細胞ですが、癌(がん)にとっては、生き残るために利用できる便利な存在でもあります。

癌細胞は、周囲に制御性T細胞を呼び寄せ、「ここは攻撃しなくていい場所だ」と誤ったブレーキをかけさせます

こうして免疫細胞を騙し、攻撃を免れて増殖しようとするのです。

そこで近年注目されているのが、「免疫チェックポイント阻害薬」という治療法です。

これは、癌細胞がかけた「間違ったブレーキ」を解除する薬です。

この「間違ったブレーキ」を外すことで、再び免疫細胞が癌を攻撃できるようにする画期的な治療法として、研究と実用化が進められています。

参考資料:国立研究開発法人国立がん研究センター 研究所 がんと制御性T細胞

制御性T細胞を増やす・減らすには?

制御性T細胞は、多すぎても少なすぎても体に不調をきたす可能性があります。

最近の研究では、食事や薬物療法によって、その数をコントロールできる可能性が示されています。

制御性T細胞を増やす場合

アレルギーや自己免疫疾患などの対策として、制御性T細胞を増やしたい場合は「腸内環境」が鍵となります

  • 特定の腸内細菌の働き:
    酪酸菌(らくさんきん)などの特定の腸内細菌が、制御性T細胞(Treg)を増やすことが研究でわかっている
  • おすすめの食材:
    腸内細菌のエサとなる「水溶性食物繊維」を積極的に摂るとよいとされていて、ゴボウ、海藻、納豆などがおすすめ

制御性T細胞を減らす場合

一方、癌治療などのために制御性T細胞の働きを弱めたい場合は、医療的なアプローチが取られます。

薬物療法を用いて、癌細胞の周りに集まって守っている制御性T細胞だけを狙い撃ちにし、癌への攻撃力を高める研究が進んでいます。

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まとめ

制御性T細胞(Treg)は、過剰な免疫反応にブレーキをかけ、アレルギーや自己免疫疾患から体を守る重要な役割を担っています。

日本で発見されたこの細胞は、私たちの健康維持に欠かせない存在です。

しかし、癌細胞はこのブレーキ機能を悪用し、免疫からの攻撃を逃れようとします。

そのため医療現場では、このブレーキを解除して癌を治療する「免疫チェックポイント阻害薬」などが注目されています。

また、日常生活においても、水溶性食物繊維を摂取し腸内環境を整えることで、適切な免疫バランスを保つ助けになります。

城西大学では、こうした人体の仕組みや薬学に関する深い学びを提供しています。

人体の不思議や医療の未来に興味を持った方は、ぜひ進学先として検討してみてください。

この記事を書いた人

谷川 尚

  • 所属:薬学部 薬学科
  • 職名:准教授
  • 研究分野:
    ライフサイエンス / 薬系衛生、生物化学 /

学位

  • 博士(薬学) ( 2008年03月   静岡県立大学 )

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