【水圏生物】日本の絶滅危惧種一覧|絶滅危惧種が増える原因や私たちにできること
ニュースやドキュメンタリー番組などで、たびたび「絶滅危惧種」という言葉を耳にすることがあります。
しかし、正確な定義やどういった生物が絶滅危惧種に指定されているのか把握できている方は多くありません。
そこで本記事では、日本国内で絶滅危惧種に指定されている水圏生物をご紹介するとともに、生態系を維持するために私たちが日頃からできる対策や行動も解説します。
もくじ
絶滅危惧種の定義について
絶滅危惧種とは、一般的には「絶滅の危機に瀕している生物」のことを指しますが、正確には「現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用するならば、その存続は困難なもの」と定義されています。
絶滅危惧種の対象となる生物は哺乳類や鳥類、爬虫類、昆虫類などの野生動物のほか、魚類や植物、菌類なども含まれています。
また、従来は海洋生物について絶滅危惧種の評価を行っていませんでしたが、2017年から魚類やサンゴ類、甲殻類、軟体動物(頭足類)、その他無脊椎動物の5分類を対象に絶滅危惧種が指定されています。
日本の水圏生物の代表的な絶滅危惧種一覧
絶滅危惧種の対象生物は広範囲にわたりますが、今回の記事では水中に棲む生物に焦点を当ててご紹介していきます。
魚類
- ニホンウナギ
- タナゴ
- ミヤコタナゴ
- ニゴイ
- ドジョウ
- ホトケドジョウ
- サクラマス
- ヤマメ
- ムサシトミヨ
- トビハゼ
- シロウオ など
両生類
- トウキョウサンショウウオ
- ヒガシヒダサンショウウオ
- ハコネサンショウウオ
- アズマヒキガエル
- ニホンアマガエル
- ツチガエル など
甲殻類
- シラタエビ
- スジエビ
- テナガエビ
- サワガニ
- モクズガニ など
貝類
- ツボミ
- ヤマキサゴ
- サドヤマトガイ
- イブキゴマガイ
- マルタニシ
- オオタニシ
- ヤマトシジミ
- ハマグリ など
藻類
- チャイロカワモズク
- イシカワモズク
- カワモズク
- アオカワモズク
- オオイシソウ
- カワノリ など
一口に水圏生物といっても魚類や両生類など多岐にわたり、絶滅危惧種に指定されているものはタナゴやドジョウ、ハマグリなど、一般的に聞き馴染みのある生物も多いことが分かります。
絶滅危惧種がまとめられた「レッドリスト」
気候変動などの影響によって生態系は変化しており、絶滅危惧種も増加傾向にあります。
そこで、定期的に絶滅危惧種の対象となる生物は見直されており、それらをまとめたものが「レッドリスト」です。
海外のレッドリストは国際自然保護連合 (IUCN)が作成しているほか、日本国内では環境省および地方自治体、NGOなどの団体が共同で調査・作成しています。
レッドリストはおよそ5年単位で全体的な見直しがされていますが、近年では特に絶滅のリスクが高い種について時期を問わず順次追加・改訂されるようになりました。
2024年8月時点において、日本国内における最新のレッドリストは2020年版のもので合計3,772種が登録されています。
また、環境省では次期レッドリストを2024年度以降に公表することを目指し準備を進めています。
絶滅危惧種が増える原因とは?
文明が発達し人類が豊かな生活を送れるようになった一方で、絶滅危惧種は増加の一途を辿っています。なぜ絶滅危惧種が増えているのか、考えられる主な原因をご紹介しましょう。
生息地の破壊・減少
都市開発に伴う森林伐採や農地の拡大などが急速に進むと、それまで野生動物の生息地であった場所が破壊されることになります。
生息場所が失われることはもちろん、食料や繁殖地なども不足することで種の存続が困難になります。
気候変動
近年、大雨や高温、大雪などの異常気象により、毎年のように大規模災害が発生しています。
気候変動によって気温や降水量が極端に変化し、生物が適応できない環境になっていきます。
たとえば、気温の上昇によって寒冷地に適応した動物が減少したり、海水温の上昇に伴い海洋生物の生態系にも大きな影響を与えることも考えられるでしょう。
外来種の侵入
野生生物はその土地に適した進化を遂げ、生態系のバランスを保ってきました。
しかし、近年では人やモノの往来によって外来種が持ち込まれるケースも増えており、異なる種が入り込むことで在来種が捕食され減少することがあります。
また、外来種によってウイルスや菌などの病原体が持ち込まれることで、在来種が病気にかかりやすくなり絶滅危惧種となるケースもあります。
過剰捕獲・乱獲
毛皮や食肉など商業目的による野生動物の乱獲も絶滅危惧種が増える大きな要因となります。
特定の地域にしか生息しない生物は希少価値が高く高値で取引されることも多く、無計画な乱獲によって絶滅の危機に瀕しやすくなります。
環境汚染
工業製品の製造過程や一般家庭などから排出される廃棄物の中には、化学物質やプラスチックなども含まれています。
河川や海などにこれらが投棄されると、汚染物質が食物連鎖を通じて水圏生物の体内に蓄積されていき、繁殖力の低下や生存率の減少を引き起こし、絶滅のリスクが高まります。
血が濃くなることによる耐性の低下
野生生物の個体数が減少していくと、近親交配が増加し血が濃くなっていきます。
近親交配によって誕生した生物の個体は病気や環境の変化に対する耐性が低下しやすい傾向が見られ、絶滅のリスクが高まります。
関連記事:地域社会の現状と問題点をわかりやすく解説|地域創生の解決策は?
絶滅危惧種の保護で行われている取り組み
絶滅危惧種の増加が危機的な状況にある中で、日本を含めた世界ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
保護区の設定
野生動物の生息に適した環境を作るために、自然保護区や国立公園などの保護区を設ける取り組みが進められています。
人間の手がかからない自然本来の場所を隔離することにより、野生動物は本来あるべき自然環境、生態系の中で繁殖や成長を遂げることができます。
特に生息地の破壊が進み絶滅危惧種が多い地域において、保護区は重要な役割を果たします。
法律と規制
商業目的による野生動物の乱獲を防ぐために、世界各国では絶滅危惧種を保護するための法律や規制が制定されています。
具体的には、対象生物の捕獲や取引の禁止、輸入・輸出の規制などがルール化され、これに違反した場合には厳しい罰則が適用されることもあります。
中でも代表的なものが「ワシントン条約」で、これは絶滅の危機にある野生動物の国際取引を規制するための国際的な協定として制定されています。
再導入プログラム
再導入プログラムとは、絶滅の危機に瀕している種を保護し動物園や繁殖施設で育てた後、別の地域の自然環境に戻すプログラムのことです。
特定の地域で絶滅した種を再びその地に戻すために効果的な方法ではありますが、成功するには適切な生息地の選定や綿密な準備が求められます。
また、再導入プログラムにあたっては、対象の種のみが生き残っていけば良いというものではなく、生息地の生態系にも影響を与えないということが大前提となります。
生息地の修復・再現
破壊された生息地を修復したり、失われた環境を再現することも絶滅危惧種の保護にあたって重要な取り組みです。
例えば、植林や湿地の再生、水質改善などが代表的です。これによって絶滅危惧種の生息条件が改善され、本来の生態系のバランスを維持できるようになります。
外来種の駆除
外来種によって生態系のバランスが崩れ、絶滅危惧種が増加している地域では、その脅威である外来種の駆除も行われています。
外来種を排除することで、絶滅危惧種が生きやすい環境を取り戻し本来の生態系を維持できるようになります。
継続的な研究
絶滅危惧種の中には生態や生息環境などについて十分な研究が進んでいないものも少なくありません。
遺伝的多様性や環境との相互作用なども含めて継続的に研究することで、効果的な保護対策にもつなげることができます。
また、野生生物そのものの研究だけでなく、気候変動についても研究が進められていけば長期的な対策も講じやすくなるでしょう。
教育と啓蒙活動
野生動物の保護活動を行っていくためには、一般市民からの理解を得ることが不可欠です。
また、企業に対しても環境保護の重要性を訴えることで産業廃棄物の適正な処理が進み野生生物が暮らしやすい環境を構築できます。
そこで、一般市民や企業に対して、絶滅危惧種の重要性や保護活動の意義を伝える教育・啓蒙活動なども行われています。
具体的には、学校教育はもちろんのこと、各種メディアを活用したキャンペーンや講演会、セミナー、ワークショップなどが挙げられ、社会全体が保護活動に参加する意識を高めるきっかけにもなり得ます。
国際的な協力
絶滅危惧種の保護は特定の国や地域だけが取り組むだけでは十分とはいえず、国境を越えた協力が不可欠です。
そこで、政府や国際自然保護連合、NGOなどが協力して保護区の設置、資金援助、技術支援、情報の共有などを行っており、これらの国際的な連携によって広範囲におよぶ保護活動が強化されています。
絶滅危惧種への対策で私たちにできること
絶滅危惧種をこれ以上増やさないために、私たちが日頃の生活の中でできる対策や行動をいくつかご紹介しましょう。
環境保護活動への参加
道路のゴミ拾いや海岸清掃、植樹運動など、定期的に環境保護活動を行っている自治体や町内会も少なくありません。
これらに参加することで日常生活においても環境意識が向上し、自然環境の保全に貢献できます。
エコフレンドリー製品の利用
環境に配慮した製品を選ぶことも自然環境の保護や環境負荷の軽減に大いに貢献します。
たとえば、自然由来の再生可能な素材を使用した製品や、持続可能な生産方法で作られた製品を選ぶことで生態系への影響を減らし、絶滅危惧種の保護に間接的に貢献できるでしょう。
省エネ家電の使用
テレビやエアコン、冷蔵庫、洗濯機などの大型家電製品を買い替える際には、省エネに配慮した製品を選ぶことも大切です。
エネルギー効率の高い家電製品を使用することで電力消費が抑えられ、二酸化炭素排出量を減少させることができます。
これにより環境への影響を最小限に抑え、絶滅危惧種が生息する自然環境の保護にもつながります。
再生可能エネルギーの利用
エコフレンドリー製品と同様、環境負荷の軽減に配慮するための対策としては再生可能エネルギーの利用も挙げられます。
太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用することで、化石燃料の消費を減らし、環境負荷を軽減できます。
これにより温暖化に伴う気候変動を緩和し、生態系の保全にも貢献できるでしょう。
リユース・リサイクルなど資源の有効活用
大量生産・大量消費の社会では不用品の廃棄によって環境汚染を引き起こすリスクがあるほか、限りある資源の無駄遣いにも直結し環境負荷を高めてしまいます。
使わなくなった製品は廃棄するのではなく、リユースやリサイクルを積極的に行うことで限りある資源を有効に活用し環境負荷を低減できます。
地元産品の購入
地元で生産された食品や製品を購入することで、輸送時に発生する二酸化炭素の排出を抑えられ環境保護につながります。
また、地元の生産者を支援することで、水産業や農産業の持続的な発展に寄与し地域の生態系保護にもつなげられるでしょう。
環境保護団体への寄付・クラウドファンディングへの参加
環境保護に配慮するといった間接的な活動以外にも、絶滅危惧種の保護活動を行っている環境保護団体に寄付したり、クラウドファンディングに参加するといった直接的な支援方法もあります。
環境保護団体の中には資金的に苦しい運営を強いられている団体も多く、資金面での支援が広がっていけば保護活動がより効果的に行われ、絶滅危惧種の保全が進みます。
外来種の徹底した管理
外来種による生態系の破壊を防ぐためには、自然の中に外来種の生物を放置しないことが重要です。
特にペットで飼育している生物を川や池、山林などに逃がす行為はせずに、最期まで責任をもって育てることが求められます。
万が一、やむを得ない理由で手放さなければならない場合でも、第三者に引き取ってもらうか保健所に相談するなどの対策を検討しましょう。
関連記事:地域活性化を目的としたまちづくりのユニークな成功事例や課題を解説
まとめ
日本において絶滅危惧種として指定される野生生物は年々増加傾向にあり、現在では3,772種にものぼっています。
水圏生物だけで見ても100種以上が指定されており、私たちにとって聞き馴染みのある魚類や貝類も少なくありません。
絶滅危惧種が増えているのは、人間の活動によって自然破壊が進んでいることも大きな要因であり、私たちの生活様式や行動を見直すべきタイミングに来ているといえるでしょう。
環境保護活動への参加やエコフレンドリー製品の利用など、一人ひとりが意識を変えたうえでできることから実践していくことが大切です。
石黒 直哉
- 所属:理学部 化学科
- 職名:教授
- 研究キーワード:環境DNA/保全生物学/DNA鑑定/分子系統学/ミトゲノム
学位
- 博士(生物資源学) ( 2001年03月 福井県立大学 )