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「薬の知識だけでは、救えない思いがある」城西大学薬学部、20年間続くフレッシュマンセミナー「患者の気持ち」


患者の声に耳を傾け、医療人としての原点を学ぶ。患者と医師が、未来の薬剤師に託した願いとは。

患者が何も言わないとき、その心の中では何が起きているのでしょうか。
がんの手術を終えた青木晴美さんは、両親の様子から、自分の病状が厳しいことを察していました。
けれど、尋ねることができませんでした。
自分自身が不安でいっぱいのときでさえ、両親をこれ以上心配させたくなかったのです。
患者は、必ずしも自分の苦しみを言葉にできるわけではありません。
言葉にならない不安や、誰にも打ち明けられない思い。それは、薬の知識だけでは気づけないことかもしれません。
2026年10月21日、城西大学薬学部の1年生を対象に、フレッシュマンセミナー「患者の気持ち」が行われました。
講師を務めたのは、41年間にわたりがんと向き合ってきた青木晴美さんと、昭和医科大学客員教授の中島宏昭先生。
2006年から20年間続くこの授業で、学生たちは患者と医師、それぞれの立場から語られる言葉を通して、医療人としての原点に向き合いました。

患者は、いつも本当の気持ちを話せるわけではない

青木さんは、子宮がん、乳がん、肺への転移を経験し、長年にわたり病気と向き合ってきた自身の歩みを語りました。
繰り返される治療、抗がん剤の副作用、再発への不安。その経験は、決して平坦なものではありませんでした。
また、医療者が何気なく使った言葉に深く傷ついた経験や、治療の可能性を求めてさまざまな方法を探した当時の心境についても語りました。
病気を治したい。少しでも希望を持ち続けたい。
その切実な願いを理解することと、医学的に適切な判断をすること。その両方が医療者には求められます。
一方で、青木さんは病気になって初めて気づいた人とのつながりや、周囲の支えによって仕事を続けられた経験にも触れました。
病気を抱えながら生きるということは、治療を受けることだけではありません。家族がいて、仕事があり、それまで積み重ねてきた人生があります。
医療者が向き合うのは、病気だけではなく、その人自身なのです。
青木さんは、これから薬剤師を目指す学生たちに呼びかけました。
「患者さんには薬剤師さんの力が必要です」
その言葉には、患者の気持ちを理解し、専門的な知識を持って支えてくれる医療人への期待が込められていました。

「患者と一緒に悩む」―学生たちが考えた、寄り添うということ

青木さんの講演後、学生たちは「患者や患者家族の思いに応えるために必要なこと」をテーマに、グループディスカッションに取り組みました。
患者の気持ちを理解するために、薬剤師には何ができるのか。そして、その力を身につけるために、これからの6年間で何を学ぶべきなのか。
学生たちからは、さまざまな意見が発表されました。
なかでも印象的だったのは、完璧な正解が出せなくても、患者と一緒に悩み、考えることが大切だという意見です。
また、患者が治療に希望を求める気持ちを尊重しながら、薬の効果やリスクについて正確に説明する必要性も挙げられました。
さらに、医師と専門的な議論ができる知識を身につけ、患者が安心して治療を選択できるよう支えたいという声もありました。
ただ優しく接するだけでは、患者を支えることはできません。
確かな知識を持ち、相手の思いを理解し、ともに考える。
学生たちは、患者に寄り添うことの意味を、自分たちなりの言葉で具体化していきました。

「怖いです」―その一言が教えてくれた、患者の気持ち

続いて登壇した中島宏昭先生は、医師としての臨床経験をもとに、医療人に求められる姿勢について語りました。
講演の途中、中島先生は一人の学生を壇上に招きました。
大勢の学生たちの視線が、一人に集まります。
今、どんな気持ちなのか。
学生から返ってきた答えは、
「怖いです」
すると中島先生は、こう語りました。
「これが患者さんの気持ちなんです」
医療者にとっては、いつもの診察室。いつもの説明。いつものやり取り。
しかし、患者にとっては、そうではないかもしれません。
目の前には、自分よりも病気や薬について詳しい医療者がいる。聞きたいことがあっても、うまく言葉にできない。わからないことがあっても、質問をためらってしまう。
患者の立場に立つとは、どういうことなのか。
中島先生は、その答えを言葉で教えるだけでなく、学生自身に体験させたのです。

「お願いですから、医師を助けてください」―未来の薬剤師への期待

中島先生は、これからの薬剤師の役割についても、強い思いを伝えました。
「お願いですから臨床の現場に出てきてください。そして薬剤師として患者さんを助けるために私たち医師を助けてください。そのことが必ず日本の医療の質を高めることになります」
薬剤師が医療現場でより主体的に関わり、医師とともに患者にとって最善の治療を考えてほしい。
医師と薬剤師が互いの専門性を尊重し、協力することで、医療の質をさらに高めることができる。
その言葉には、未来の薬剤師たちへの大きな期待が込められていました。
また、中島先生は医療現場での失敗に誠実に向き合った経験を紹介し、間違いを隠さず、責任を持って対応することの重要性についても語りました。
知識や技術を磨くだけでなく、患者から信頼される人間であること。
医療の専門職には、その両方が求められます。

20年間、変わらず伝え続けてきたこと

2006年から続くフレッシュマンセミナー「患者の気持ち」。
青木さんと中島先生は、20年間にわたり、これから薬剤師を目指す学生たちに言葉を届けてきました。
授業の冒頭、担当の上田先生は、医療人に必要なプロフェッショナリズムや、患者・生活者を総合的に理解する姿勢、他者のために行動する利他的な心の大切さを伝えました。
医療技術が進歩し、薬剤師の役割が広がっても、変わらないものがあります。
それは、医療の先には必ず、一人の人間の人生があるということ。
病気への不安も、家族への思いも、生きたいという願いも、その人の人生の一部です。
「私たち患者は、皆様の力を必要としています」
青木さんが学生たちに託した言葉です。
薬のことを安心して相談できる。言葉にならない不安にも耳を傾けてくれる。
そんな薬剤師がそばにいてくれたら、患者はどれほど心強いでしょうか。
城西大学が20年間大切にしてきたのは、専門的な知識とともに、患者の気持ちに向き合う姿勢を育むこと。
患者の声に耳を傾けることから、未来の薬剤師たちの6年間が始まっています。
Report & Text Ami Hirai
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