グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ


Vol.9 世界にとびたつ城西生


私は薬学部卒業後、1年半の薬局薬剤師経験を経て、現在はハンガリーの大学で公衆衛生学を勉強しています。

右:西さん(本人)

“公衆衛生学” は薬学生の皆さんは必修科目の一つとして履修したかと思いますが “公衆衛生学部” と ”公衆衛生学専門家(Public Health Specialist)” は日本ではまだ広く認知されていないのではないかと思います。ここヨーロッパで行われている公衆衛生専門家の仕事は主に、疫学調査・統計解析より感染症対策に対応、職場・教育機関などで環境調査・コントロール、研究などがあり、就職先としては医療機関、製薬会社、食品衛生登録検査機関、その他企業、研究所、WHOなどがあります。
ところで、なぜハンガリー?と多くの人に聞かれます。理由は、奨学金が充実していること、大学の時から行きなれていたこと、現地の友達が居ることより長期留学に伴う様々な負担が少なかったためです。

国際交流などを経験(本人:中央 緑のドレス)

私がハンガリーに興味を持ったきっかけは、城西大学在学中にダンス部で一人のハンガリー人留学生と出会ったことでした。私たちはお互いに言葉が満足に通じないにも関わらずとても仲良くなり、彼女の一年留学中はお互いの言語や文化を教え合っていました。私はそれまで他の国に対する特別な興味がなかったのですが、彼女を通じて自分と異なる文化、環境、言葉を知ることの面白さに気がつきました。またそれを機に、大学にあった留学生サポートクラブに参加して沢山の留学生と交流を持つことにもつながりました。
また私は大学三年生と四年生の夏休みにハンガリーの大学でハンガリー語を学ぶ、サマースクールに参加したことがあります。それは、彼女の一年留学が終わって帰国した後一人でハンガリー語を勉強することに限界を感じたことがきっかけでした。その奨学金の審査は大学の成績と応募動機からなる書類審査、大使館での英語またはハンガリー語面接の合計で行われるのですが、当時英語をきちんと勉強したことがなかった私は、準備していったこと以外はほぼ何も答えられないという悲惨な面接で初めの年は選考に落ちてしまいました。しかしこれがよいモチベーションとなり、次の年の選考に向けて、後一年間は毎日大学のLanguage Loungeに通い外国人講師とお昼を食べながら英語で会話したことで、飛躍的な英会話力の上昇につながりました。またLoungeに通うなかで、海外に興味をもつ他学部の学生達との交流も出来て、友達の輪も広がりました。
ハンガリー留学のために習得した英会話力は後に沢山のチャンスを与えてくれました。例えば、城西大学が主催・参加した様々な国際イベントや会議へのホスト学生やパネリストとして参加しました。特に様々な国の博識な学生達とディスカッションを持つことは私の視野を大きく広げました。同時に効果的なプレゼンテーションの仕方も他の学生たちから学びました。英語の読み書きはこうしたプレゼンテーションを作る経験を通して磨かれました。
他には個人的にインドに医療ボランティアに行った際も施設の職員や他のボランティアの人たちとスムーズに英語でコミュニケーションがとれた為、とても有意義な時間を過ごすことができました。女性リーダー育成奨学生に選抜されたのも英語を通して得られた豊かな経験のおかげであったと思います。
またこれらの活動を通して知り合った各国の友達の多くとは今でもオンラインで繋がっており、様々な国に気軽に友達を訪ねていけるのはとてもありがたいことです。
薬学部の生活に少し触れると、私は高校時代まで理系科目は基礎しか勉強してこなかったので、薬学部の勉強は特に最初はとても難しく、初めの試験で受けた十何科目全て再試験となったことが今では笑い話となっています。しかしこの時の、人生一必死に勉強をしたことで全ての再試験を拾えた経験が、一見難しそうに感じることでも挑戦してみる価値がある、ほとんどのことは実現できるという自信を与えてくれました。これは私の最大の強みである、自分の興味を持ったことに自由に挑戦できる行動力の源となっています。
城西大学卒業後は、入学当初からの、日々の食事を通じて予防医療を促進したいという自分の思いと重なる会社に出会えたことより、その会社の薬局薬剤師になりました。希望していた、健康相談に特に力を入れている店舗に配属させていただき、友達の沢山居る地元で毎日患者さんと話すことを楽しみに仕事して、充実した生活を送っていました。しかし同時に、患者さんと話すなかで予防医療を本格的に学んでみたいという思いも日々強くなりました。これを機にハンガリー政府の奨学金試験、大学入学試験に挑戦し、合格の後、仕事を辞めてハンガリーへ渡りました。

大学生活

私の大学は首都ブダペストから電車で2時間30ほどの場所にある第二の首都デブレツェンにあります。既存するハンガリーで最も古い大学で、メインの医療系学部の他にパイロット、語学、IT、ビジネスなど多岐にわたる14学部で構成されています。

Debrecen大学

首都ブダペストの夜景

様々な国からの沢山の留学生が在籍しており、各学部に、授業が英語で行われる留学生のクラスとハンガリー語で行われるハンガリー人のクラスがあります。私は公衆衛生学部の留学生のクラスに所属しており、現在のクラスメートは15人で、モロッコ、ベトナム、中国、マレーシア、モンゴル、ナイジェリア、ヨルダンからの学生がいます。定期的にピクニックや各国のお祝い、クリスマスパーティーを行っておりとても団結したよいクラスです。公衆衛生学部の科目は多岐にわたり、医療系科目の他に進化論や経済、社会学、法律、心理学、教育学、環境学、疫学統計、ラテン語、コミュニケーション学などが必修としてあります。これは公衆衛生専門家の仕事が、始めに挙げましたように多岐にわたるためです。
初めは英語で専門科目を勉強することに対し難しさを感じました。わからない単語ばかりで授業についていくのに苦労し、試験では問題文の意味がわからず回答をかけないこともありました。しかしより大変な薬学部の勉強を経験していることを励みにし、クラスメートに助けてもらいながらなんとか留年せずにここまで来ることができました。今ではほぼ単語を調べなくても先生の話している内容が理解できるので成長を感じます。
また、試験のシステムは日本とは少し違って、1.5ヶ月ほどの試験期間の間に1つの科目に対して3回まで試験を受けることが出来ます。試験は筆記(選択問題、エッセイ問題)と口頭があり、私は口頭試験に馴れていないので毎回とても緊張しますが、間違い探しのような選択問題に比べて、実際にはより正確に勉強した知識を評価してくれるように感じています。
今までの授業の中で特に印象に残っているのは、解剖学で本物の遺体を使用して実物の臓器を見ながら勉強したことです。日本では個人情報・尊厳などの関係で本物の遺体を用いるのはなかなか難しいと思うのですが、ヨーロッパでは教育のためによく提供され、授業で実物を使うのは一般的だそうです。

留学生活

留学生活は新しい発見、経験の連続で、様々な国の学生とのシェアハウス、大学生活、旅行、イベントや薬局体験、医療システムなど数え切れないほどお話したいことがあるのですが、特に伝えたいと思ったのは、私の大きな2つの学び、日本のよさと時間の使い方です。
日本の良さは沢山あるのですが、特に平和な生活の観点で強く感じました。
卒業後の進路について話すときに帰国の選択肢があることが恵まれていることを今は実感しています。というのも、ハンガリーは他のEU諸国と比較して物価の安さや外国人向け奨学金の充実などの理由より、経済的、政治的に母国での生活が厳しく未来の生活をEUで目指す外国人学生が多数在籍しています。具体的には、自国ではお金やコネクションがないと職を得るのが難しい、生活に十分な稼ぎが得られない、内戦・外戦中のため生活に命の危険が伴うなどの背景を持つ国の学生達です。同じ時間に同じ場所で勉強している友達が、日々自国の家族や友達の安全を心配しているのはショックであるのと同時に、私にとって国際問題に対しより関心をもつことと日本の恵まれた生活に気づくことのよいきっかけとなりました。
時間の使い方についての学びは、特に私の日本での生活がバイトに仕事に勉強に遊びにと、いつも忙しいもので時間をどれだけ節約できるかが重要だったことに起因します。現在のハンガリーでの生活は一変して、留学生という立場もあり出来ることが限られているのと、現在の学部の勉強が薬学部よりも余裕があることから、今までの人生の中で最もゆとりのある生活を過ごしています。初めは多くの自由時間を持つことになれなくて居心地の悪い日々でしたが、今では移動はゆっくり歩いて景色を楽しむ、新しい料理(各国の郷土料理やパン作りなど)に積極的に挑戦してみるなど、時間をかけることで生活の質を上げる良さを感じます。数多くの経験と質の高い経験両方が同等に素晴らしいものであることを留学生活の中で身をもって学びました。

クラスメイツ

クラスメイツ

ハンガリーの薬局薬剤師

冬休みの期間に、薬局薬剤師をしている友達にお願いして週数回薬局のお手伝いをさせてもらいました。とても興味深い経験だったのその時のお話とハンガリーの薬剤師制度について少しお話したいと思います。
ハンガリーの薬剤師制度は、EUの制度に基づいておりEUの国の薬学部を卒業していると簡単な書類の手続きのみでハンガリーで薬剤師として働くことが出来ます。逆もしかりでハンガリーの薬学部を卒業すればEUの薬剤師免許とみなされ、他のEUの国薬剤師として働くことが出来ます。日本のような国家試験制度はなく薬学部を卒業するとすぐに薬剤師として登録できます。薬学部は5年制で、卒業後の学位は学部を表すBScではなくOne-tierというもので、修士を表すMScと同等の学位です。
日本の薬局との違いは、薬局で働く人に薬剤師の他にテクニシャンと呼ばれる、日本の登録販売者に近い資格をもった人たちがいます。テクニシャンには二種類あり、一つは日本の調剤補助員の範囲にプラスして軟膏、液剤、散剤等全ての調剤ができます。もう一つは初めの種類に加え、服薬指導も出来ます。薬剤師独自の仕事はテクニシャンの仕事の確認とOTCやサプリメントを買いに来た人に対して相談、商品選択に関わることです。
服薬指導は日本のように細やかなルールはなく、基本的に患者さんに聞かれた場合のみ情報提供の義務があります。用法用量、副作用症状の説明義務もありませんし嗜好品聞き取りも義務ではありません。というのも処方箋治療は医師の責任で行われているため、薬剤決定に際し必要な患者さんの情報収集、用法用量、注意事項説明などは医師からされているという前提があります。また、計量の処方は少なく、一包化の習慣もないので大部分は既製品で調剤し箱ごと患者さんにお渡しします。箱の中には一般的な服用方法、注意事項が書かれた紙が同封されているので患者さん自身で読むというスタイルです。半錠は患者さんに自身が服用時に行います。このような仕事内容の違いより、ハンガリーの薬局薬剤師の仕事は、よりOTC選択やサプリメント選択に重きをおいていることを感じました。どの薬局にいってもサプリメントの種類は年齢によって細かく分かれていたり様々な組み合わせのものがあったり、薬剤師のアドバイスはとても役に立ちます。
他の違いは、患者情報管理のシステムです。患者さんの過去のカルテ、処方箋等の情報は全ての医療機関がアクセスできるクラウドシステムに保存されています。これにより他の病院で受けている治療、過去の処方歴等を確認することが出来ます。ハンガリーは現在、日本のような皆保険制度を導入しているので皆が個々の保険番号を持っており、その番号で情報が管理されています。また処方箋には紙と電子の方式があり、現物がなくてもこのクラウド上の処方箋情報を用いて現在有効な処方への調剤が出来ます。
他にも細やかな違いはありますが特に印象に残ったのは以上のことでした。

薬局の外観

店内

使用されている薬1

使用されている薬2

大学卒業後の進路について

卒業後の進路について、ハンガリーでの勉強を始めた当初はここで学んだことを活かしてまた日本で薬剤師をすることを考えていました。現在は正直な気持ち、明確には決まっていません。ハンガリーでの生活で得た経験からより多くの選択肢を得たためです。ただ私は患者さんと交流できる薬剤師の仕事が好きであることと、日本のために働きたいという思いを強く実感するようになりました。また、コロナで疲弊している医療従事者、医療現場に対してなにか出来ないかという気持ちもあります。
しかし現在は具体的な進路選択よりも未来の自分の自由な選択をサポートするため、やり残しのない日々を送ること、勉強含め日常生活に最善を尽くすことに重点を置いています。
進学、卒業、就職、転職と誰もが人生の節目は不安と悩む気持ちで一杯かと思います。私が難しい選択をしなければならない状況にあった時に大切にしていることは、後に振り返ったとき後悔のない程度に悩むことです。しかし最終的に自分で選んだ道はどれでも結局は最高の決断になることを信じています。

最後に薬学部進学、卒業後進路で悩んでいる人にお伝えしたいことがあります。薬学部で勉強した知識は日常生活で役立つとても便利な知識なので、卒業後薬剤師以外にも可能性は沢山あります。また、在学期間は6年間と長いですが、卒業してからでも新しいことに挑戦する時間は十分にあります。なので、やりたいことを我慢しない、毎日が楽しめるような選択をしてください。皆さんの楽しい学生、社会人生活を心より祈っています 😊
  1. ホーム
  2.  >  薬学部
  3.  >  薬学部薬学科(6年制 薬剤師)
  4.  >  薬剤師のしごと
  5.  >  Vol.9 世界にとびたつ城西生